ここでは、私のことを知っていただくために、私のデザイン制作に対する向き合い方について述べていきますので、お付き合いいただければと思います。
便宜上、「向き合い方」と言っていますが、考え方とか哲学とかいったニュアンスで捉えていただいて問題ありません。
まず、デザイン制作には必ず「発注者(クライアント)」と「製作者(デザイナー)」が存在します。
デザイン制作を依頼する側と、デザイン制作を行う側ですね。
※実際は製作者側はデザイナーだけとは限りませんが、ここでは分かりやすくするためにデザイナーとしています。
仮に発注者がおらず、製作者が自分自身のデザイン制作を行う場合であっても同じです。
その場合は製作者自身が発注者と製作者両方の役割になります。
私がデザイン制作において最も重視していることは、この
「発注者と製作者の認識を限りなく近づけること」
です。
デザインの良し悪しは、この1点に尽きると言っても過言ではないと思っています。
もう少し具体的にお話ししていきましょう。
デザインは”共同制作”である
というのが、私の結論(というか持論)です。
デザイン制作は製作者だけが作成して終わり、ではありません。
デザイン発注者と製作者が共同で作り上げるものだと思っています。
いわば、発注者と製作者は一蓮托生。
運命共同体なわけです。
ややもすると、製作者側の責任逃れをしているように聞こえてしまうかもしれませんが。
責任の所在の話をしているわけではなく、デザイン制作をより良いものにするために必要なこととして捉えてください。
なので「こんな感じでよろしくやっといて」のような発注者側からのいわゆる”丸投げ”では良いデザインは生まれない、ということをこれを読んでいる方には認識していただきたいと思っています。
そもそも「デザイン」とは何か
そもそもの話、「デザイン」とは何でしょうか。
よくデザインのことを「アート」や「芸術」に近いものとして認識されることがありますが、デザインはそういったものとは根本的に異なっています。
デザインとは、「ある目的を達成するために生み出される制作物」です。
いくつか例を挙げると、
広告は「その商品を買って(知って)もらうため」
ファッションは「それを身につける人の欲求を満たし、服飾としての機能を果たすため」
家電は「その商品が持っている機能を十分に発揮させ、かつ使いやすくするため」
都市設計は「そこで暮らす人が快適に、より住みやすくするため」
こういった目的を達成するために存在するのがデザインです。
こうして見ると、有形無形問わず、ありとあらゆるものが「その目的のためにデザインされたもの」であることがわかりますね。
今あなたの周りに存在しているものも、仕組みも、ほぼ全てがデザインされたものなわけです。
アートや芸術とは別物であることがご理解いただけたかと思います。
デザインに最も必要なもの
話を元に戻します。
冒頭で「デザインは依頼者と製作者の認識を限りなく近づけることが最も重要である」ということを言いました。
その理由について解説します。
①:製作者が「デザインの目的」を正確に理解するため
デザイン製作者が制作物の目的を理解していなければ、当然ながら良いデザインはできません。「目的を理解していないなんてことあるの?」と思われるかもしれませんが、クライアントから作って欲しい要件だけ提示されて、デザイナーが目的とズレたデザインを制作する、なんてことは普通にあることです。
両者がお互いのことをよく知っている間柄ならそれでも成立することもあるかもしれませんが、よほどのことが無い限り不可能でしょう。
②:製作者が「誰に向けたデザインなのか」を正確に理解するため
ビジネス的に言えば「ターゲットが誰かを明確にする」ですね。
「50〜60代の既婚女性向け」と「20代の独身男性向け」では、デザインが全く異なります。
デザイナーは「男性向け」だと思っていたけれど、実はターゲットには女性も含まれていた、なんてことはよく聞くケースだったりします。
③:製作者が「デザインに必要な要素」を正確に理解するため
デザインは過不足があってはいけません。
「目的達成のために必要な要素は入れ、必要でない要素は入れない」が原則。
不要な要素を盛り込むことで、発注者が強調したいメッセージが霞んでしまっては本末転倒です。
デザイナーが良かれと思ってやったことが、結果的にマイナスに働いてしまうこともよくある話です。
これらの理由は基本的にデザイン製作者側がデザインする上で必要な内容を正確に捉えるためのものですが、実は発注者側にとっても大事なことだったりします。
意外と、発注者側もこれらを正確に定義していないケースがままあったりするんですね。
これらがお互いに曖昧なままデザイン制作してしまえば、見た目はオシャレで綺麗な「それっぽいデザイン」ができたとしても、本来の目的を達成することは困難でしょう。
ゆえに、発注者と製作者がこれらを共通認識として押さえておくことが、デザインにおいての絶対条件になるんです。
発注者からしたら、「めんどくさい、それくらい察してよ」と思われるかもしれません。
確かに製作者側の「要件・要求を汲み取る(引き出す)力」も重要です。
しかし、製作者側も製作者側で、要求に応えようと工夫を凝らします。
するとどうしても、発注者側の意図と異なる部分が生まれるのは避けられないものです。
ここは私が非常に拘っている部分なんですが、その理由を説明したいと思います。
言葉の壁
言葉で何かを伝えるって、とても難しいことです。
これは多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか?
自分の思いや考えを言語に落とし込んでみても、何かしっくりこない。
言葉が間違っているわけではないのに、自分の思っていることを正確に表現できていない。
それどころか、相手に自分の思いが正しく伝わっていない。
こんな経験、私も一度や二度ではありません。
しっかりと話し合って要件を定義したにもかかわらず、後になって「こんなつもりじゃなかった」。
マジかよ…。(泣
なぜこんなことが起こるのでしょうか。
それは、言葉は非常に「抽象的な概念」だからです。
例えば、「コピー」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
これを読んでいる方であれば、文脈からデザインに関することであることがわかるので、すぐさま「ああ、デザインの原稿のことね」となるでしょう。
しかし、そうでない場合。
「コピー&ペースト」のコピーを思い浮かべるかもしれませんし、
または「コピーライティング」を思い浮かべるかもしれません。
もしかしたら「印刷」かもしれませんね。
それでもこの例なら、前後の文脈から比較的容易に判断は可能でしょう。
でも、
「大きい」「小さい」「綺麗」「カッコいい」「かわいい」「明るい」「楽しい」のように、個人の主観に依った言葉はそうはいきません。
自分が思っているイメージと同じように相手も捉えているとは限りません。
というか、違っていると思った方が正しいでしょう。
こういった言葉のイメージの齟齬が、大きな差を生みます。
デザインに限らず、要件は言葉で伝えられます。
なので、いくら丁寧に言葉で伝えたとしても、相手に自分が思うイメージでは伝わっていないことの方が多いでしょう。
ビジネスでは、案件開始のタイミングで基本的には最初に「要件定義」という工程で両者間での認識共有・合意を行いますが、すでにこの時点で歪みが生まれている可能性が高いんです。
それが後になるほど、大きな溝になって姿を表すのです。
昨今、コロナ禍の影響もあって、WEB上での文章のみで仕事のやり取りを行うことも増えています。
しかし文章だけでは、どうしてもその場の「空気感」や「ニュアンス」といったものが伝わりにくい。
よって誤解や認識齟齬が生まれやすい状況になっていると思います。
このご時世、特に言葉は蔑ろにしてはいけません。
最後に
つらつらと自分の考えていることを述べてきましたが、私が言いたかったのは、
私は
「これってこういうことですか?」
「それはどういう意味ですか?」
「これにはどういう意図がありますか?」
「もう少し具体的に説明できますか?」
みたいなことをいちいち聞いてくるヤツなので、どうか面倒くさがらないでください。
ってことです。(笑
これも良いデザイン制作をするために必要なことなんです。。
これからAI時代に突入するにあたり、言葉の重要性は今以上に重要になっていくと思っています。
AIは機械ですから、人間が発した言葉の微妙な機微を感じ取るのは難しいでしょう。
以前、信号機の画像が見つけられるかをChatGPT(チャット対話AI)に聞いてみました。
その際に、
「信号の画像が欲しい」
と入力したんですが、帰ってきた答えは
「どのような信号の種類ですか?具体的な例があれば教えてください」
みたいなことを言われました。
(AIに「もっとちゃんと伝えろよ」と怒られました…)
ああ、そうか。
機械は「信号」と言われたら、信号機ではなく「電気信号」の方を思い浮かべるんだなぁと。
私もうっかりでした。
こんなことが人間同士でも日常茶飯事起きているんですから、機械なら余計そうでしょう。
「言葉をしっかり伝える」ことの重要性が、少しでもわかってもらえたら幸いです。
デザイン制作と同じくらい、言葉も大事にしていきたいと思います。